口腔ケアと栄養

摂食嚥下リハビリテーション口腔ケア

精神科領域の摂食嚥下障害(後編)

監修:

東京医科歯科大学 摂食嚥下リハビリテーション学分野 

教授

戸原 玄先生

前編に続き、精神科領域の摂食嚥下障害(後編)を紹介する。

向精神薬が口腔機能に与える影響

向精神薬が口腔および嚥下機能を低下させる副作用としては、錐体外路症状、眠気、意識障害、鎮静、食欲低下、嘔気、嘔吐、筋弛緩、口腔乾燥などがある。

特に、錐体外路症状は深刻な嚥下障害を起こす場合がある。

また、抗コリン作用を有する薬物は、神経伝達物質のアセチルコリンがムスカリン受容体に結合するのを阻害し、唾液分泌を低下させる。

唾液量の低下により口腔乾燥が進むと、食塊形成や嚥下の不良、誤嚥の誘発がおこる。

向精神薬の影響は医療従事者には広く知られているが、「口の中が乾きやすくなった」「飲み込みづらい」「むせ込む」といった自覚症状を、副作用ではなく日常の一コマとして患者さん自身がとらえていると、医療従事者に伝えることはないだろう。

口腔への副作用を疑う場合であっても、治療薬の変更や減量によって、精神症状への影響が懸念されることがある。

向精神薬が必要な時に必要量使用されること、また一定期間服用しても精神症状の改善が見られない場合には、適切に中止・減量をすることの見直しが必要となる。

症状を見極めながら、先を見据えた口腔衛生の予防的な介入を行うとよい。

 

 

口腔ケアに摂食嚥下機能訓練の取り入れを

摂食嚥下機能を向上させる簡単な訓練について紹介する。

咽頭期の嚥下は反射運動である。反射運動そのものを鍛えることはできないが、関連する部位を鍛えていくことで、機能が改善される。

 

 

肋間筋のストレッチ

肋間筋のストレッチ

呼吸と飲み込む行為は密接に関わっているため、肋骨と肋骨の間の筋肉を伸ばすストレッチは有用と考えられている。

胸の位置で腕を組み、鼻でゆっくり息を吸いながら、腕を組んだ状態のまま頭上までゆっくりと腕を持ち上げる。

口でゆっくり息をはきながら、腕を組んだ状態のままゆっくりと下げる。

この動作を苦しくない程度に繰り返す(目安は10 回)。

 

 

開口訓練

開口訓練

口を最大限に開口させ10秒保持。1日に5回2セット行う。

訓練を実施した患者さんに舌骨挙上量、食道入口部開大量、咽頭通過時間、咽頭残留などに改善がみられた4)

唾液腺マッサージ

食前などに口や舌の体操を行うと、その刺激によって唾液分泌量が増加し、口腔を湿潤させることが期待できる。

ただし、唾液の生産能力を向上させるまでには至らないため持続的な効果は期待できない。

唾液腺マッサージ

さいごに

食べるために必要な情報は年々アップデートされている。

これらの情報を患者さんの環境や意向に沿って上手く落とし込み、食べることの支援が進むことを強く願っている。

また、近くに評価や相談、調整食が楽しめるレストランなどを探している方は「摂食嚥下関連医療資源マップ(http://www.swallowing.link/)」の活用も有用である。

地域で摂食嚥下障害を有する患者さんを支えるためには多職種連携が必須である。

これらの情報や繋がりを活用し、地域リハビリテーションの推進に繋がることを期待する。

 

 

【引用】

4) Wada S.et al: Arch Phys Med Rehabil.2012; 93: 1995-1999

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